来日から10余年・・・自分に残ったものは?
日本語能力試験N2合格を目指す何人かのグループでの日本語学習。
「~ばよかった。」という表現が出てきたので、「どう?皆さん、自分のこれまでを振り返って、どんなこと、思います?」
Tさん「高校を卒業する時、もっと真剣に大学での専門を考えればよかった」
Hさん「若い時にね、もっと日本語の勉強をすればよかった」
すかさず、数ヶ月前にこのグループに入ったAさん・・・「僕もそう、本当にそう思う」
皆から一斉に「Aさん、まだ若いじゃ~ん」
「僕ね、16歳の時に母親と一緒に、父(注:難民申請をして、すでに日本で暮らしていた・・・)に呼ばれて日本に来ました。
それで、高校はもう卒業していたから、日本の学校に行くっていうことも、とくには考えなかった。
親は、仕事はするな、家にいろ・・・と言ったけれど、父も母も夜まで仕事に行っていて、家に一人・・・
何もすることもなくて、数か月した時にバイトしてみた。
1か月して、13万円のバイト代をもらいました。そのお金、自分の国でだったら、すごい大きいお金です。
13万円ですよ・・・。(注:自分の手を見ながら・・・)そのお金、手にしたら、もう「バイトバイト・・・」それしか考えなくなっちゃって・・・」
「ある日、ふと思った。
俺(注:僕から俺に・・・)、10年以上日本にいて、いい歳になって、今の自分に何が残っているんだろう。
一生懸命仕事してきたけど、自分には何も残っていない。
これからまた10年経っても、これまでの10年と同じ?
10年たっても今と同じように店の仕事、バイトでやっている? ・・・そんなのでいいのか?」
数ヶ月前に学習支援室に「勉強したい」と言ってやってきたAさんを思い出しました。
気持ちや目標は大きいけれど、実力はまだまだ遠く及びません。
今のN2合格を目指すグループで一緒に勉強していくには、ちょっと力不足・・・。
「宿題もたくさん出るけれど、どうしてもということで、このグループで勉強するなら、一つだけ約束。
必ず宿題をやってくること。一回でも忘れたら、このグループでの勉強はやめてくださいね。」
以来数カ月。Aさんは、1回の欠席も宿題忘れもありません。
「若い時にもっと日本語を勉強すればよかった」
確かに・・・。
でも、その後悔は先に生かしていくしかありません。
ここでふんばってほしい。
Aさんは、よく面倒をみてあげている、最近来日した同国人の後輩の若者に、「もっと勉強しろ」を口をすっぱくして言っているのだそうです。
「最近、その子、勉強するようになりましたよ」
とても嬉しそうに話しています。
後悔は自分の将来に生かすだけでなく、後に続く者たちにも生かされていくのですね。